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高松地方裁判所丸亀支部 昭和35年(わ)111号 判決 1961年12月22日

被告人 高田竹一 外九名

主文

被告人本多義則を、判示第一の(一)中別紙(1)金員交付一覧表1乃至10の恐喝の事実及び同第一の(六)(八)の事実について懲役壱年六月に、同第一の(一)中別紙(1)金員交付一覧表11 12の恐喝の事実及び同第一の(二)の事実について懲役壱年六月に、

被告人高田竹一、同小野田充良を各懲役壱年六月に、

被告人浜田利次を判示第一の(六)の事実につき懲役壱年に、同第一の(三)(九)の(1)(2)の事実につき懲役六月に、

同第三の(三)の事実につき懲役六月に、

被告人河田新太郎を懲役六月に、

被告人松井理生を、判示第三の(二)中別紙(2)集金一覧表1乃至9の横領の事実につき懲役四月に、同集金一覧表10 11の横領の事実につき懲役弐月に、判示第四の(二)の事実につき懲役弐月に、同第一の(五)の事実につき懲役拾月に、

被告人山田芳勝を懲役参年に、

被告人窪谷治久を懲役弐年に、

被告人大川明智を懲役壱年に、

被告人田中秀信を懲役参月に、

それぞれ処する。

下記被告人等の各未決勾留日数中、被告人本多義則に対しては、一五〇日を前記前者の壱年六月の刑に、被告人小野田充良に対しては、一五〇日を右本刑に、被告人浜田利次に対しては一五〇日を前記判示第一の(三)及び(九)の(1)(2)の罪につき定めた懲役六月の刑に、被告人山田芳勝、同窪谷治久に対しては各一八〇日を、同大川明智に対しては九〇日を、それぞれ右本刑に算入する。

但し被告人河田新太郎、同大川明智に対しては各本裁判確定の日から参年間、被告人田中秀信に対しては、本裁判確定の日から弐年間それぞれ右刑の執行を猶予する。

押取してある日本刀一振(証第二三号)の物件は、被告人田中秀信からこれを没収する。

(訴訟費用の負担部分略)

本件公訴事実中、被告人高田竹一、同河田新太郎、同田中秀信は、高田武士と共謀して、昭和三四年九月一八日午前一一時四〇分頃より、債権者村上留蔵の委任により、丸亀市風袋町四〇番地青柳旅館こと潮江和雄方応接間において、高松地方裁判所執行吏吉田巌の代理近藤慶子立会の上、右潮江所有の電気冷蔵庫、テレビ等電気器具七点につき公の競売が実施された際、右村上が六万円の競買申込をするや、同人を脅迫して、更にそれ以上の競売申込をしないことを応諾させた上、被告人河田、同田中の両名が共同で六万二百円で右物件を競落し、もつて威力を用いて公の競売の公正を害すべき行為をなしたとの点(当庁昭和三五年(わ)第一一一号事件)については、被告人高田竹一、同河田新太郎、同田中秀信は、いずれも無罪。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人本多義則は、香川県丸亀市及びその周辺に勢威を張り、興行並びにいわゆる競艇の予想屋等を営む団体本多組二代目組長、被告人高田竹一は右本多組の初代組長と親しくしていた関係上同組の相談役的地位にあるもの、被告人小野田充良は高松の的屋坂井組の身内で本多組に親しく出入りしていたもの、被告人浜田利次は本多組に暫々出入りしていたもの、被告人松井理生は前記本多組二代目組長本多義則の義弟分に当り、被告人山田芳勝は本多組の分家で善通寺市及びその周辺に勢力を有する的屋山田組初代組長、被告人窪谷治久はその代貸で山田組二代目組長となつたもの、被告人大川明智は右山田組の幹部であり、被告人河田新太郎は不動産仲介業を営んでいたものであるが、

(以下第二、第三、第四、第五の各事実略)

(一)  ((わ)第八八号第一の事実)(省略)

(二)  ((わ)第八八号第二の事実)(省略)

(証拠の標目)(略)

(前科)(略)

(法令の適用)

法律に照すと、被告人等の各所為中、判示第一の(一)乃至(四)、(六)乃至(八)、(九)の(1)(2)、(一〇)、(一一)の各所為は、それぞれ刑法第二四九条第一項、第六〇条に、同第一の(五)の所為は、同法第二四九条第一項に、同第二の所為は同法第二四六条第一項に、同第三の各所為は、それぞれ同法第二五二条第一項に、同第四の(一)の(1)及び同第四の(二)の各所為は、それぞれ同法第二〇八条、罰金等臨時措置法第二条第三条に、同第四の(一)の(2)の所為は、刑法第二二三条第一項、第六〇条に、同第五の(一)、(二)、(三)及び(四)の拳銃一挺不法所持の点は、それぞれ銃砲刀剣類等取締法第三条第一項第三一条第一号、罰金等臨時措置法第二条に、同(四)の実包一〇七個、不法所持の点は、火薬類取締法第二一条、第五九条第二号、第二条第三号、罰金等臨時措置法第二条に各該当するところ、(但し、判示第一の(一)、(二)、(五)、(九)の(1)(2)及び(一一)各所為及び同第二の所為は各々包括一罪と認める)

一、被告人本多義則の判示第一の(一)、(二)、(六)、(八)の各罪については、

(1)  判示第一の(一)の末尾添付別紙(1)金員交付一覧表1乃至10の恐喝(包括一罪の一部)及び同第一の(六)、(八)の各罪は、前掲前科欄二の(一)記載の確定裁判の罪に対し、刑法第四五条後段の併合罪となるから、同法第五〇条に則り、未だ裁判を経ていないそれらの各罪について更に処断すべきところ、判示第一の(六)の三村に対する恐喝及び向井に対する恐喝の罪は、一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段第一〇条に則り、犯情の重いと認められる向井寛一に対する恐喝の罪の刑に従つて処断し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条に従い犯情の最も重いと認められる判示第一の(八)の罪の刑に法定の加重をなした刑期の範囲内で同被告人を懲役壱年六月に

(2)  また、その余の、判示第一の(一)の末尾添付別紙(1)金員交付一覧表11、12(包括一罪の一部)の恐喝及び同第一の(二)の各罪は、同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条に則り犯情の重いと認められる判示第一の(二)の罪の刑に法定の加重をなした刑期の範囲内で同被告人を懲役壱年六月に

それぞれ処することとし、

二、被告人高田竹一の判示第一の(三)、(四)、第二の罪及び第三の(一)の横領の罪について、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条に則り犯情の最も重いと認められる判示第一の(三)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役壱年六月に処することとし、

三、被告人小野田充良の判示第一の(三)、(一〇)、(十一)の各罪について、以上の罪は、前掲前科欄二の(二)記載の確定裁判を経た罪に対し、刑法第四五条後段の併合罪となるから、同法第五〇条を適用して、未だ裁判を経ていない右各罪について処断すべきところ、同被告人には前掲前科欄一記載の前科があるから同法第五六条第一項、第五七条を適用して、それら各罪の刑に累犯加重し、更に、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条、第一〇条に則り犯情最も重いと認められる判示第一の(三)の罪の刑に、同法第一四条の制限内で、法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役壱年六月に処することとし、

四、被告人浜田利次の判示第一の(三)、(六)、(九)の(1)(2)の各罪及び第三の(三)の各横領の罪について、

同被告人は前掲前科欄二の(三)の(1)(2)(3)記載の各確定裁判を経た前科があり、右(1)の前科と判示第一の(六)の罪が、右(2)の前科と判示第一の(三)、(九)の(1)(2)の各罪が、右(3)の前科と判示第三の(三)の各罪が、それぞれ刑法第四五条後段の併合罪の関係があるから同法第五〇条に従い、未だ裁判を経ていない、各それらの罪について更に処断することとし、判示第一の(六)の三村に対する恐喝及び向井に対する恐喝の罪は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に則り犯情の重いと認められる向井寛一に対する恐喝の罪の刑に従つて処断することとし、右所定刑期の範囲内で、同被告人を懲役壱年に、又判示第一の(三)、(九)の(1)(2)の各罪は、同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条第一〇条に則り犯情の最も重いと認められる同第一の(三)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に、更に判示第三の(三)の各横領は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条、第一〇条に則り犯情最も重いと認められる未尾添付別紙(3)取立金一覧表の横領の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に、それぞれ処することとし、

五、被告人河田新太郎の判示第一の(四)の罪については、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に処することとし、

六、被告人松井理生の判示第一の(五)、第三の(二)の各罪及び同第四の(二)の罪について、同被告人には前掲前科欄二の(四)の(1)乃至(4)記載の各確定裁判を経た前科があり、右(1)の前科と判示第三の(二)の末尾添付別紙(2)集金一覧表1乃至9の横領の罪が、右(2)の前科と同一覧表10、11の横領の罪が、右(3)の前科と判示第四の(二)の罪が、右(4)の前科と判示第一の(五)の罪が、それぞれ刑法第四五条後段の併合罪となるので、同法第五〇条に従い、未だ裁判を経ていないそれらの罪について、更に処断することとし、判示第三の(二)の別紙(2)集金一覧表1乃至9の各横領の罪については同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条第一〇条を適用して犯情の最も重いと認められる同一覧表7の横領の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役四月に、判示第三の(二)の別紙(2)集金一覧表10、11の各横領については、同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条第一〇条を適用して犯情の重いと認められる同一覧表11の横領の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役弐月に、判示第四の(二)の罪については、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役弐月に、判示第一の(五)の罪については、所定刑期の範囲内で同被告人を懲役拾月に、それぞれ処することとし、

七、被告人山田芳勝に対する判示第一の同(六)、(七)、第四の(一)(2)、同第五の(三)の各罪について、右第五の(三)の罪については所定刑中懲役刑を選択し、なお右第一の(六)の三村に対する恐喝及び向井に対する恐喝の罪は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に則り犯情の重いと認める向井寛一に対する恐喝の罪の刑に従つて処断することとし、以上右各罪は、刑法第四五条前段の併合罪となるから、同法第四七条第一〇条に則り、犯情の最も重いと認める判示第一の(七)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役参年に処することとし、

八、被告人窪谷治久に対する判示第一の(七)、同第四の(一)の(1)、(2)同第五の四の各罪について、右第四の(一)の(1)については所定刑中懲役刑を選択し、又右第五の(四)の罪は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条に則り重い銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪の刑に従つて処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪は刑法第四五条前段の併合罪であるから、第四七条第一〇条に則り、最も重い判示第一の(七)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役弐年に処することとし、

九、被告人大川明智に対する判示第一の(七)、同第五の(二)の各罪について、右第五の(二)については所定刑中懲役刑を選択し、以上各罪は、刑法第四五条前段の併合罪となるから同法第四七条第一〇条に則り、重い判示第一の(七)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役壱年に処することとし、

一〇、被告人田中秀信に対する判示第五の(一)の罪については、所定刑中懲役刑を選択して、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役参月に処することとする。

なお、各刑法第二一条を適用して、下記被告人等の各未決勾留日数中、被告人本多義則に対しては一五〇日を、判示第一の(六)等の罪につき定めた懲役一年六月の刑に、同小野田充良に対しては一五〇日を右本刑に、同浜田利次に対しては一五〇日を判示第一の(三)及び第一の(九)(1)(2)の罪につき定めた右懲役六月の刑に、同山田芳勝、同窪谷治久に対しては、各一八〇日を、同大川明智に対しては九〇日を、それぞれ右本刑に算入することとし、

又、諸般の情状により同法第二五条第一項を適用して、被告人河田新太郎、同大川明智に対しては本裁判確定の日から三年間、同田中秀信に対しては二年間当該被告人に対する前記各刑の執行を猶予する。

更に、押収してある日本刀一振(証第二三号)の物件は、被告人田中秀信の前掲犯罪行為を組成したる物であり、右当該被告人以外の者の所有に属さないものと認められるから同法第一九条第一項第一号第二項を適用して同被告人よりこれを没収する。

訴訟費用の負担について、刑事訴訟法第一八一条第一項本文並びに連帯負担の分については同法第一八二条を適用してそれぞれ主文表示の如く被告人等に負担させることとする。

(当庁昭和三五年(わ)第一一一号事件に対する無罪の判断)

公訴事実の要旨は、

被告人高田竹一、同河田新太郎、同田中秀信は高田武士と共謀の上、昭和三四年九月一八日午前一一時四〇分頃より、債権者村上留蔵の委任により、丸亀市風袋町四〇番地青柳旅館こと潮江和雄方応接間に於て、高松地方裁判所執行吏吉田巌の代理近藤慶子立会の上、右潮江所有の電気冷蔵庫、テレビ等電気器具七点につき公の競売が実施された際右村上が六万円の競買の申込をするや、同人を別室に連れ込んで取りかこみ交々「六万円以上に値をつけたら承知せんぞ」とか「六万円以上につけへんなあ」等と申し向け、同人をしてこれに応じなければ如何なる危害を加えられるかも知れないと畏怖させて六万円以上の競買の申込をしないことを応諾させた上、被告人河田及び同田中の両名が共同で六万二百円の競買の申込をして競落し、以て威力を用いて公の競売の公正を害すべき行為をなしたものである。

というのであるが、以下証拠に照して検討を加える。

被告人高田竹一、同河田新太郎、同田中秀信が高田武士と互に意を通じて、右公訴事実記載の日時、場所において同執行吏代理立会の下に行なわれた右物件の強制競売において、右公訴事実の如く、村上留蔵を脅迫し、被告人河田、同田中の両名が六万二百円で競買の申込をしたことは、証拠上これを認めることが出来る。ところで、右競売物件及び売却の条件は、動産差押調書(証第五号)公正証書正本(証第六号)並びに証人近藤慶子、同潮江和雄の当公判廷における各供述等によれば、昭和三四年八月一二日差押えを受けた

1  テレビ受像機(日立一四吋アンテナ共) 一台

2  電気冷蔵庫(日立二〇〇立方)     一台

3  日立角火鉢              一個

4  日立やぐらこたつ(台付)       一個

5  日立サークライン           一個

6  日立電気釜              一個

7  東芝電気釜              一個

の七点で、それらの一括競売であつたことが認められる。

然しながら、前記潮江、近藤各証人の供述及び潮江の検察官に対する供述調書によれば、右物件中、テレビ受像機一台は差押中である昭和三四年八月一七日に占有者である執行吏から保管を任された債務者潮江和雄において、擅に丸亀市北平山町小野文子方質店に二五、〇〇〇円で入質したものであり、前記競売期日においても未だ入質中であつたが、近藤執行吏代理において右の如く差押物件の一部が入質中であることを全然気付かず、又右競売物件全部について一々点検確認した上実物を示すことなく、(執行吏執行等手続規則第四〇条、第四一条参照)、唯、差押調書に基いて、当然前記債務者宅に右物件全部が存在するものとしてこれらを一括競売に付したことが明らかである。

ところで、右のように差押物件中、執行吏の占有を離脱した物件を有効に競売することが出来るかという点について考察するに、一般に、有体動産に対し差押があつたときは、それ以後は処分禁止の効力を生じ、これに違反して債務者が処分した場合には、その処分行為は当事者間では有効であるが、これをもつて差押債権者に対抗することが出来ないものである。これを本件について考えてみると、前記入質処分はこれを差押債権者に対抗出来ないこととなり、従つて執行吏はその物の占有を回復することは可能である。然しながら、だからといつて、競売当時の物の占有者に対し、執行吏が私法上一般に許される自力救済の範囲を越えて、何等の債務名義を要せずして直接実力をもつて、現実の占有者から物件を取り戻すというが如きことは到底出来ないものと言うべく(この点、執行吏の占有の性質が公法上の占有であるとの理由から積極的見解もないではないが当裁判所はこれを採らない。)そうすると、現に競売当時執行吏の占有下にない物件の競売は許されないものといわなければならない。何となれば、民事訴訟法上、競落人が競売期日に代金の提供をすれば、これと引き換えに競売物件を引渡すべきであるのに、これが事実上不可能であるからである。」(この点仮りに、執行吏が現在の占有者から物を直接取戻出来ると考えてみたところで、その占有者が即時取戻可能な場所以外でその物を占有する場合も結論は同一であると考える。)而して、前記競売手続は競落人に一部引渡し出来ない物件を売却する意味で瑕疵を具有しているものといわなければならない。

そこで進んで、右瑕疵の本件競売手続に及ぼす影響について考えると、前記差押調書記載の前掲七点の物品に対する評価額によれば、右物件は全部で二六、四〇〇円であり、そのうち、競売当時入質中のテレビ一台は一〇、〇〇〇円と評価せられており、なお証人村上留蔵の当公判廷における供述によれば、前記競売物件全部の時価は少くとも一五万~一六万円を下らないものであり、そのうち電気冷蔵庫とテレビが中心をなす物件であることが認められる。そうすると、本件一括競売において、右テレビの占める比重は相当に大なるものと認めることが出来、かゝる程度に重大な物件を執行吏が占有することなくして、他の物件と共に何ら実物を示さないでこれらを一括競売した場合は、売却条件に重大な瑕疵があるものとしてその競売手続全体に決定的な影響を及ぼし、その結果右競売手続は全部法律上無効なもの、換言すれば、有効な競落の効果を生じ得ないものと断ずるのが相当である。ところで、刑法第九六条の三第一項の威力競売妨害罪における保護法益は、単に国家または公共団体が施行する競売または入札なる「公務」のみではなくして、国家または公共団体が何人からも不当な影響を受けることなく自由に競売または入札を行うことによつて受ける「経済的利益」をも含むものであると解するのが相当であり、そうすると、競売または入札手続が無効であつて、競落または落札の効果が生じない場合には、かりに威力を用いて競売または入札を害すべき行為がなされたとしても、それによつて右の「経済的利益」を侵害する結果が発生する余地はなく、また右の結果が発生する危険も生じないから、威力競売妨害罪は成立しないものというべきである。

そうすると、右公訴事実について右被告人等の行為は、結局罪とならないから、刑事訴訟法第三三六条により、無罪の言渡をすることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 橘盛行 塩田駿一 横山義夫)

(別紙(1) 金員交付一覧表)(省略)

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